Drupal の創始者ドリース バイテルト氏のブログを日本語で紹介するコーナーです。
オープン ガバーンメントの時代である昨今、有権者はオンラインで素晴らしいサービスを提供されることを期待する。このため、市民のニーズに応える大胆なデジタル体験を提供するべく、政府をそっくり、新しいデジタル プラットフォームへと移すことが求められることもある。これは一仕事だが、適切なテクノロジーと計画があれば、政府は新しいプラットフォームをうまく採り入れることができる。米国からオーストラリアまで数多くの政府が、それを実証してみせた。ただ、あいにく、いつもそうなるとは限らない。
誤ったやり方:Canada.ca
カナダ政府は 2014 年にすべての Web ページを Canada.ca という単独のサイトへと移すプロジェクトをスタートさせた。2015 年、ある商業ベンダーに 154 万ドル(米ドルなら約 180 億円、加ドルなら約 136 億円)の契約が与えられた。それが今ではどうなっているか。そのプロジェクトは予定よりも 1 年遅れ、コストも 10 倍の予算超過だ。この請負は現在、1000 万ドル(米ドル約 1168 億円、加ドル約 882 億円)に到達しようとしている。Canada.ca への移行はたったの 0.05 % しか完了していないため、現在のプロジェクトは国民に対するひどい仕打ちだと、多くの人が考えている。
このプロジェクトの結末は目前に迫っているが、それは失望的なものだと思う。というのも、現在の予定表から見て、移行の遅れ、予算の超過、そして納税者に対する過大な要求はこのまま続くと思われるからだ。僕は Canada.ca が同国国民にとって貴重なリソースへと発展するよう望んではいるが、Acquia 社の公共セクター担当チーフ デジタル ストラテジストであるトム コクラン(Tom Cochran)に同意する。トムはホワイトハウスと国務省(U.S. Department of State)のデジタル プラットフォームを稼働させた人物だ。彼は、このプロジェクトの企画および実施の仕方を見るかぎり、Canada.ca は見込み薄だという。
Canada.ca の問題の原因は 1,500 の部署と 1,700 万のページを単独のサイトへ移行させるという決定にあったように見える。僕が推測するところ、単独のサイトにする目的は、政府とつながるための中心的な入り口を国民に提供することだろう。単独サイトという戦略は極めて効果的になり得る。たとえば、ボストン市は単独サイトだが、200,000 を超える Web ページがあり、所属部署は 120 にわたり、真にユーザー中心の体験を提供している。(それに対して)1700 万ページを移行しようとする Canada.ca は Boston.gov の 85 倍の大きさだ。この規模のプロジェクトなら複数サイトのアプローチを検討するべきだった。さまざまな省庁や部署が独自のサイトを持ちながらも共通のプラットフォーム、ツールセット、共有インフラを使用できるというものだ。
Canada.ca にかかわる数々の難題は、すべての部署を単独のドメインに移そうという野心的な試みから始まったのかもしれないが、この戦略はおそらく、単独ソースの占有(商用)ソリューションを実装したことによって、いっそう込み入ったものになった。カナダの調達モデルがオープンソースを支持しなかったのは残念だと思う。カナダ政府には、古くからオープンソースを使用している歴史があるし、国内には才能ある Drupal 技術者がたくさんいる。オープンなプラットフォームを退けたことで、カナダ政府は、技術力の高い、自国のオープンソース開発者のコミュニティーを参加させる機会を失った。
正しいやり方:オーストラリア政府
一国家全体のデジタル戦略を変革するのは大変なことだが、他の公共セクターのリーダーたちは、それが可能であることを証明した。オーストラリア政府を例にとってみよう。ジョン シェリダン(John Sheridan)、シャリン クラークソン(Sharyn Clarkson)をはじめとする財務省チームは、2015 年に省のサイトを旧式の環境から Drupal とクラウドへ移した。財務省はそれを見事に成し遂げただけでなく、さらに govCMS という Drupal ディストリビューションへと発展させた。このディストリビューションは現在、オーストラリア国内で 6 つの管轄区域にわたって 52 を超える政府機関を支えている。Canada.ca と同じく、govCMS の目的は、政府とかかわるうえでより直感的(に使用可能)なプラットフォームを国民に提供することにある。
govCMS の基本方針は、統治管理はするが支配制御をしようとはしない、というものだ。各政府部門はそれぞれの対象市民のニーズに応える柔軟性を求める。単独サイトのソリューションは、組織によっては(全体を一つの屋根の下に収める)傘のように機能することもある。ボストン市がその好例だ。しかし、最先端のアプローチをとっている大規模な(政府)組織は、ほとんど「ハブ アンド スポーク」モデルを採用している。すなわち、いくつもの異なるサイトがコード、テンプレート、インフラを共有するものだ。その場合、できるだけ共有するのがお薦めだが、共有しなくてはならないわけではない。このため、各部門は独立して、自分たちの選んだプラットフォームを導入・採用することができる。
govCMS にはオープンソースという性質があるので、オーストラリアの数多くの部門では革新と協力の両方が推し進められた。そのなかでもいちばん注目すべき例は、ある連邦機関と国家機関が、オープンデータ CKAN レポジトリー上にデータ可視化機能を作成するための開発作業を連携して行ったことだ。さまざまな機関からデータを取得して分析するのに必要な CKAN モジュールの開発は環境省が始めた。そのモジュールを使って自分たちも予算報告書(の作成)を推進できることに気づいたヴィクトリア州知事官房省は、govCMS である CKAN を共同開発するかたちで手伝った。これは、オープンソースによって、公共機関が、ベンダーの関与に関係なく、省庁をまたぐかたちで機能性(役割の範囲)を拡張できるという絶好の例だ。共有するための障壁を取り払うモデル(前例)を作り上げたことによって、govCMS は本当の革新を起こす自由をオーストラリアに与えた。
百聞は一見にしかず:主流的なモノの見方から切り替える
1つのオープンソース プラットフォームでインフラ構造、コード、テンプレートを共有する複数のサイトを使った分散モデルでは、「統治」と「革新」が共存できる。このモデルについては、ここで「オープンソース的なやり方でコントロールを緩める」ことについて書いた。政府を丸ごと新しいデジタル戦略およびプラットフォームに移すのなら、オープンソースに基づいた複数サイトのアプローチが唯一の方法だと僕は思っている。
組織(企業)にとっては、これを理解するのがひどく難しいこともある。結局、これは製品の機能や技術的な性能、あるいは商業的なサポートといった問題ではなく、仕事のやり方、革新方法がまったく異なるのだ。これを納得させるのは、なかなか厄介だ。というのも、これは、組織がレンズを通して世の中を見ている、そのレンズを替えなくてはならないからだ。それは、見かけ上の安全とコントロールを与えてくれる商用ソフトを調達することから離れることであり、制御能力を失うことなしに制御の手を緩めることによって円滑な革新と共有ができる世界へと進むことだ。Drupal、オープンソース、クラウドによって得られる革新をうまくマーケティングして売るには、みんなの考え方を転換し、普及しているパターンに挑まなくてはならない。
それ(新しいやり方)を組織(企業)に確信させるには、それをいろいろな形で見せる必要がある。オーストラリア政府に関してワクワクするのは、Drupal ディストリビューションを伴うオープンソース ソフトウェアをベースにした分散型のサービス モデルに備わる潜在能力を理解できるよう、他の組織を本気で助けていることだ。オーストラリア政府は、より低価格でより高速、かつ、よりよい結果が得られる、円滑な共有エコシステムを生み出した。
これからカナダは?
僕には、カナダ国民にとってトンネルの向こうに光を見いだすのは難しい。カナダ政府はこれまでどおりのコースを進むこともできる ―― そして、これまでのあらゆる兆候はそれを示している ―― が、その進路には高額の値札が付いているし、大幅な延期を伴い、刷新はスローなものになるだろう。オタワ(カナダの首都)にとっての代替案としては、一時停止ボタンを押し、自分たちの戦略を見直してみるのがいいだろう。外に目を向け、ワシントン、キャンベラ、そして数え切れないほど多くの他の政府が、自国民のデジタル ニーズに対応するというミッションにどうアプローチしたのか見てみるといい。たくさんの Drupal エキスパートが、政府組織のなかにも、カナダ全土にわたって数十社はある Drupal 業者にもいることはわかっている。彼らも自国政府に是非ともよりよい進路を示したいと願っていることだろう。
Drupal の詳細については下記をご覧ください!
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