イベント開催レポート~経済産業省公開の「DXレポート」について

2021年9月27日、経済産業省が公開した「 DX レポート」(DX:Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)について、経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課の渡辺課長をお招きし、日本OSS推進フォーラム主催のオンラインイベントを開催しました。正会員向けに開催された本イベントでは、「DXレポート2.1」に関する勉強会だけではなく、企業の取り組みや、対応策などについてのディスカッションも行いました。

勉強会:DXレポート2.1(DXレポート2追補版)

2018年9月に、経済産業省は「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」を公表し、以降、DX推進ガイドラインやDX推進指標の策定、企業のDX推進の施策を展開してきました。徐々に「DX」という言葉を使う人が増え、DXの取り組みを始める企業も増えてきました。

経済産業省はDXを、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを

変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、定義しています。

環境変化に適応して競争力を強くするのに、デジタルを活用した経営の革新が必要です。そのため、企業文化に変革を起こし、迅速に実現できる組織・体制の整備が求められます。一方、企業がDXを推進しているかどうか、「DX推進指標」を活用することにより、経営のあり方・仕組みとITシステム構築の両面から、6段階で自己診断が可能になりました。9月、10月はIPA(情報進機構)による診断集中実施期間であり、自己診断の結果を提出すれば、IPAより詳細なベンチマークデータが提供されるので、自社のDX推進状況を正しく把握することができます。

「DX 推進指標」の構成

(出典:「DX 推進指標」とそのガイダンス 経済産業省(2019年7月)

2020年末時点のDX推進指標の分析結果では、(DX推進指標に沿って自己採点し、結果を提出した)95%の企業はDXに全く取り組んでいないか、取り組み始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っておらず、先行企業と平均的な企業のDX推進状況に大きな差があることがわかります。

(出典:DXレポート2中間とりまとめ

経済産業省のもう一つの取り組みとして、東京証券取引所と共同で行われた「DX銘柄」の選定が挙げられます

本取り組みでは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定することで、優れた取組事例を広く波及させるとともに、DXの重要性に関する経営者の意識変革を促すことを目的とし、投資家等にも広く知らせることで、企業DXの更なる促進を図ります。

渡辺氏は、コロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきアクションについて言及しました。それは、業務環境のオンライン化、業務プロセスのデジタル化、従業員安全・健康管理のデジタル化、顧客接点のデジタル化の4点です。更に、DX推進に向けた対応として、短期的には、推進体制の整備、戦略の策定、推進状況の把握が必要で、中長期的には、デジタルプラットフォームの形成、産業変革のさらなる加速、ベンダー企業の事業変革、ユーザー企業とベンダー企業の新たな関係の構築、DX人材の確保が必要としています。このように、目指すべきデジタル産業の姿・企業の姿を具体化した、「DXレポート2.1」が2021年8月に公表されました。

最後に、デジタル産業指標(仮)とDX成功パターンの策定が今後の政策の方向性だと話し、デジタル人材育成の全体像について述べました。

ディスカッション:DXを加速するために、今すべきことは何か?

勉強会を踏まえて、渡辺氏と会員企業において、「DXを加速するために、今すべきことは何か?」についてディスカッションを行いました。今回参加された企業は、株式会社日立製作所、日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、富士通株式会社、株式会社SRA、SRA OSS,Inc.とサイオステクノロジー株式会社の7社です。ファシリテーターは日本OSS推進フォーラム理事、SRA OSS, Inc.社の稲葉氏が務めました。

参加者はDX推進の課題や自社の取り組みついて紹介しました。

「企業DX化促進におけるクラウドネイティブ化やアジャイル開発、マイクロサービス化といったコンサルティングや技術支援を中心に行っています。特に基盤構築で重要とされるコンテナに力を入れていますが、コンテナがまだ早いというユーザー様の声をよく聞きます。DX推進は一社でできることではなく、業界全体で推進していかなければなりません。企業によって、DX化への取り組みに温度差があり、なかなか進まないのが実情です。」と、サイオステクノロジーの平塚が課題を挙げました。

これに対して、渡辺氏は、「政府が積極的にDX化促進の政策を打ち出しつつ、IT製品やソリューションを提供する企業とともに、ユーザー企業の意識改革を進めていく」と回答しました。

続いて、DXグランプリ2021受賞しました日立製作所の河合氏から、「DX推進指標の自己診断結果を提出した企業の中でも、よくできているのは上位の0.5%に過ぎないとのことですが、これについて、経済産業省は何か支援策を考えていますか。または、企業に対して期待していることはありますか。」と質問しました。

これに対して、渡辺氏は、DX推進における先行企業と非先行企業の差(下図)を示しながら、「前者と後者の顕著の差がみられる項目:経営視点指標においては、平均的な企業は経営層による危機感・ビジョン実現の必要性の欠如、経営トップのコミットメント、投資意思決定・予算配分、人材の融合が課題」として挙げました。また、先行企業では現在値の平均は経営視点指標>IT視点指標、非先行企業では経営視点指標<IT視点指標という事実を指摘し、「まず、企業の経営ビジョンと取り組みをしっかり定め、ステークホルダーに対してきちんと説明責任を果たすことが重要だ。」と述べました。

「DX銘柄を目指す企業は、トップのメッセージをしっかり出していかねばなりませんね」ファシリテーター稲葉氏のコメントに、参加者の笑いを誘ました。

経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課の渡辺課長の資料より

日立製作所の西谷氏は、「2018年のDXレポート初版のとき、国内IT人材の分布はベンダー企業:ユーザー企業=8:2くらいの割合でしたが、経済産業省のDX施策が始まって3年たった今、この割合に変化はありますか?」と、質問しました。

これに対して、渡辺氏は、「統計上の数字がないものの、経済産業省は地域の企業・産業のDXを加速させるために必要なデジタル人材を育成・確保するためのプラットフォームを構築し、デジタル人材の不足に対応しています。すぐに急激な変化が見られませんが、少しずつ改善しています」と現状を説明しました。

日本電気の菅沼氏は自社の取り組みについて、「会社を内部から変えるのに、従来のビジネスモデルや体制では
対応が難しい、新しい組織が必要と感じました。そのため、NECでは、2-3年前からデジタルビジネスプラットフォームユニットという2、3千人の部署を立ち上げ、全社のDXを進めてきました。この部署では、経営コンサルティング、クラウドプラットフォーム、SIやAIビジネス、生体認証などDX関連の技術やソリューションを集めて、お客様と共に、DX化を推進していこうとしています」と紹介し、「しかし、思ったほどスピードが出ず、新しい技術やソリューションがなかなか広がりません。更に、変革を引き起こすだけではなく、企業としての収益性・製品納入時の安全性・品質保証も求められていますので、現場では、ジレンマを感じています。」と悩みを打ち明けました。

最後に、渡辺氏は、DX化推進は国にとっても企業にとっても不可欠な取り組みであり、その重要性を訴え続けていくとし、2時間のイベントが終了しました。

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