プロダクト開発やサービスデザインにおいて、ユーザーの体験を時系列で可視化する「カスタマージャーニーマップ」。ユーザー理解を深め、チームの目線を合わせるための強力なツールですが、作成する中で以下のような壁にぶつかったことはありませんか?
- ユーザーの行動は並べられたけれど、その裏にある『真の感情』や『潜在的な課題(インサイト)』まで踏み込めていない気がする
- チーム内だけでブレインストーミングをしても、ありきたりな課題や、自分たちの都合の良い解釈ばかりが出てきてしまう
こうした膠着状態を、ChatGPT、Gemini、ClaudeなどのAIチャットが助けてくれるかもしれません。
今回は、チャットボットを「壁打ち相手」として活用し、カスタマージャーニーマップのインサイトを深掘りするための具体的なステップと、プロンプトの例をご紹介します。
AIチャットでの壁打ち:インサイトを深掘りする4つのステップ
それでは、実際にAIチャットを使ってジャーニーマップをブラッシュアップしていくプロセスを見ていきましょう。
ステップ1:ペルソナと前提条件の「同期」
AIチャットに壁打ちを依頼する前に、まずはリサーチデータやペルソナの情報をインプットします。ここでの情報の具体性が、その後のアウトプットの質を左右します。
【入力プロンプト例】 「あなたの一流のUXリサーチャーとして、私のカスタマージャーニーマップ作成の壁打ち相手になってください。 まずは前提となるペルソナとプロダクトの情報を共有します。内容を理解したら、質問をせずに「前提を理解しました。いつでもディスカッションを始められます」とだけ返答してください。
■ プロダクト:20代〜30代向けの、資産運用を自動化するスマホアプリ ■ ペルソナ:都内在住の会社員(28歳)、将来への漠然とした不安はあるが、投資の知識はなく『損をするのが怖い』と感じている。平日は仕事が忙しく、スマホを触るのは通勤中と就寝前のみ。」
ステップ2:行動の理由を分析させる
前提を同期したら、ジャーニーマップの特定のフェーズを切り出してAIチャットにぶつけます。ユーザーが特定の行動をとった時の「言語化されていない動機」を掘り下げます。
【入力プロンプト例】 「ペルソナが『アプリをダウンロードしたものの、初期設定(銀行口座の連携)の画面で離脱した』というフェーズについて考えます。 単に『面倒くさいから』という理由以外で、この時ペルソナの脳内で起きている心理的な葛藤や不安、あるいは『私には関係ないかも』と感じてしまうような感情を、認知心理学やUXの観点から5つ洗い出してください。」
AIチャットは、「セキュリティへの不安」「今すぐやらなければいけない強制感への反発」「投資金額の決定に対するコミットメントへの恐怖」など、行動の裏に潜む心理的背景を論理的に言語化してくれます。
ステップ3:ペルソナになりきってもらい「不満」を吐き出させる
次に、AIチャットにペルソナそのものになってもらい、インタビュー形式で壁打ちを行います。客観的な分析ではなく、「主観的な感情」を引き出すアプローチです。
【入力プロンプト例】 「これからは、先ほど共有したペルソナ(28歳会社員)になりきって回答してください。私はインタビュアーです。 「ねぇ、アプリを開いて最初の画面を見たとき、ぶっちゃけどう思った?何が一番モヤモヤした?』」
AIがペルソナを演じることで、「専門用語が多くて、自分が場違いなところにいる気がした」「いきなりお金の話をされて、心の準備が追いつかなかった」といった、人間のチームだけでは見落としがちな生々しい感情のインサイトが浮き彫りになるかと思います。
ステップ4:「悪いシナリオ」と「理想のシナリオ」のギャップを埋める
最後に、ジャーニーマップにおける「悪い体験」をどうやって「良い体験」に変えられるか、具体的な改善アイデアの種を蒔きます。
【入力プロンプト例】 「ペルソナが最も不安に感じる『口座連携』のステップにおいて、他業界(例えばエンタメ、SNS、ゲームなど)で使われている『ユーザーの心理的ハードルを下げるオンボーディングの手法』を参考に、このアプリに転用できるアイデアを3つ提案してください。」

AIチャットと壁打ちする際の3つの注意点
AIチャットは優秀なパートナーですが、過信は禁物です。
実際のユーザーインタビュー(一次情報)を最優先にする
AIチャットが出してくれるインサイトは、あくまで「理論上、そうなる可能性が高い仮説」です。AIとの壁打ちで得られたインサイトは、実際のユーザーテストやインタビューデータと照らし合わせて検証してください。
ハルシネーション(誤情報)を前提に、根拠を問う
AIチャットがそれらしい回答をしたときは、「なぜそう思うの?その根拠となるペルソナの行動特性はどこにある?」と追加で質問(深掘り)してください。これにより、AIの適当な思いつきを排除し、筋の通ったインサイトを抽出できます。
機密情報の入力には配慮する
AIチャットは入力された情報を学習していくことを前提で利用しましょう。未発表のプロダクト名や、個人情報を入力しないようにしたり、学習させない設定や、Google Workspace上のGeminiを利用するなど、対策をしてください。
まとめ:AIとの協働で可能性を拡げる
カスタマージャーニーマップの作成において、AIチャットを壁打ち相手にすると、「チームの視野を広げること」ができるでしょう。
一人で、あるいはチームだけで悩んでジャーニーマップが「綺麗だけど浅いもの」になってしまいそうなときは、AIチャットに「ちょっとこのユーザーの気持ちを想像して」と話しかけてみてください。

