こんにちは、吉田行男です。今回は、「クラウドネイティブの現在地」についてご紹介したいと思います。
CNCF Annual Report
Linux Foundation傘下でクラウドネイティブ関連のテクノロジやソフトウェアを主導するCloud Native Computing Foundation(以下CNCF)(*1)が、CNCF Annual Reportの日本語版(*2)を公開しましたので、その内容をご紹介したいと思います。
このCNCFは、2015年に設立されKubernetes、Prometheus、Envoy、ContainerDなど、クラウドを構成するためになくてはならないオープンソースプロジェクトをホストしている団体です。現在、120以上のプロジェクトをホストし、189ヶ国から142,000人以上の貢献者が参加していますが、まだまだそれらの増加の傾向は止まっていません。IDCのアナリストであるDave McCarthy氏は次のように述べています。『2020年から2021年にかけて、クラウドネイティブテクノロジーの採用が大幅に増加したことが確認されています。2022年もクラウドネイティブの採用が進み、デジタルファーストの未来を計画するCIOのクラウドネイティブ戦略の基礎となる要素になると予測しています。』
(出典:CNCF Annual Report 2021)
また、2021年には新たに190もの新しいメンバーが参加し、世界最大のパブリックおよびプライベートクラウド企業、世界で最も革新的なソフトウェア企業やエンドユーザー組織など、現在740を超える組織が参加しています。ちなみに、新たに参加した組織のうち、80団体は中国からの参加であり、中国でのクラウドネイティブテクノロジーの高まりを感じさせる内容になっています。
(出典:CNCF Annual Report 2021)
また、このCNCFでは、エンジニアの育成にも積極的に取り組んでいて、さまざまなトレーニングや認定試験を提供し、技術者のスキル向上に貢献しています。
Kubernetesのオンライン学習コース(MODC)の受講者は前年比39%増加し22万9000人に到達しています。また、認定資格の「Certified Kubernetes Application Developer」 (CKAD)は受験者数が前年比86%増の3万4000人、「Certified Kubernetes Administrator」 (CKA)は合格者が前年比89%増の7万人に、2020年11月に開始した「Certified Kubernetes Security Specialist」(CKS)は8,450人がそれぞれ登録しました。また認定のサービス・プロバイダー(Kubernetes Certified Service Provider:KCSP)は28%増加して230社に、認定トレーニングパートナー(Kubernetes Training Partner:KTP) は14%増加して57社になりました。残念ながら、これらの数値はグローバルのデータですが、これらの認定試験には、日本語で受験できるものありますので、腕に覚えのある技術者やこれから技術を見つけたい技術者は、トライしてみても良いかも知れません。
【日本で受験可能な認定試験】
- 認定Kubernetes管理者 (CKA-JP)
- 認定Kubernetesクラウドネイティブアソシエイト(KCNA-JP)
- 認定Kubernetesアプリケーション開発者(CKAD-JP)
- 認定Kubernetesセキュリティスペシャリスト(CKS-JP)
CNCFでは、既に卒業した16のプロジェクトの他、26のインキュベーションプロジェクトや78のサンドボックスプロジェクトが存在しています。2021年には、サンドボックスプロジェクトが42も追加されました。このようにプロジェクトの新陳代謝も活発に行われています。
(出典:CNCF Annual Report 2021)
(出典:CNCF Annual Report 2021)
また、年に2回実施しているプロジェクトのメンテナに対するアンケートによると、2021年はCNCFに対する満足度やスタッフに対応に関する評価も向上し、89%のメンテナーがプロジェクトをホストする場所として、CNCFを推奨しています。
(出典:CNCF Annual Report 2021)
また、年に2回実施しているプロジェクトのメンテナに対するアンケートによると、2021年はCNCFに対する満足度やスタッフに対応に関する評価も向上し、89%のメンテナーがプロジェクトをホストする場所として、CNCFを推奨しています。
Kubernetesの現状
さて、このクラウドネイティブの中核をなす「Kubernetes」に関する調査結果(*3)をVMware社が公開していますので、ご紹介したいと思います。
この調査は、2018年、2020年、2021年に続く4回目で、2022年は、ソフトウェア開発者とITプロフェッショナルの776人を対象とし、米VMwareが米Dimensional Researchに依頼して調査したものになります。調査対象は、従業員数1000人以上の企業で、Kubernetesに責任を持つ個人に焦点を当て、幅広い役割、業界、地域、職務をカバーしています。
すでにKubernetesは主流になっているといって良いかも知れませんが、それはデプロイされているクラスタ数が2021年から2022年にかけての急激な増加を見ると誰もが納得せざるを得ません。来年度の計画についても、回答者の約半数が50%以上増加すると回答しており、今後ますますKubernetesのクラスタ数が増加する傾向は止められない様子になってきています。
現在運用中の Kubernetes クラスタ数
(出典:The State of Kubernetes 2021)
では、なぜこのようにKubernetesを導入されるのでしょうか?
下図のように「アプリケーションの柔軟性」や「開発者の効率向上」などソフトウェアの開発に関する項目が上位を占めています。また、「クラウドの利用率向上」や「クラウドのコスト削減」などクラウドに関する項目にも注目が集まっています。
(出典:The State of Kubernetes 2021)
次に、Kubernetesを本番で運用する際にどのようなことが課題となるのでしょうか?昨今のサイバーセキュリティの現状を考えてもセキュリティが最重要課題になることは間違いありません。今後は、セキュリティにフォーカスしたKubernetesの運用をどのように進めていくかが、今後のKubernetesの拡がりにかかっているかも知れません。
このようにすでにメインストリームになったKubernetesですが、クラウドネイティブが進む中、エンジニアの育成も含めて、Kubernetesを取り巻くエコシステムの充実が更なる重要な課題となってきていますので、今後とも注視していかなければならないと思います。
(*1) https://www.cncf.io/
(*2) https://www.cncf.io/wp-content/uploads/2022/01/CNCF_Annual_Report_2021.pdf
(*3) https://tanzu.vmware.com/content/ebooks/the-state-of-kubernetes-2021
著者:
吉田 行男
2000年ごろからメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。社内外でOSS活用に関する講演、執筆活動を行ってきた。2019年から独立し、さまざまな会社や団体の顧問として活動。OSSの活用やコンプライアンス管理などを支援している。