【第2回】Linux/OSS エヴァンジェリスト古賀政純の 『オープンソース・Linux超入門』~「CEOが知っておくべきオープンソース革新」(中編)~

今回のゲストブログは、日本ヒューレット・パッカードが公式に認定するオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストで、Hadoopの技術者認定資格を保有する古賀政純さんです。オープンソースにこれから取り組もうとしている方々や、もう一度基本から学びたいという方々からのご要望にお答えして、『オープンソース・Linux超入門』を連載していただいております。今回は、3週連続で連載している「CEOが知っておくべきオープンソース革新」の中編です。オープンソースを取りまく企業の在り方、技術者の存在意義、欧米における技術者のコミュニティとオープンソース技術の現在をご紹介します。(2016年5月18日)

オープンソース技術者に必要なものとは?

オープンソース技術の価値を見出し、技術者を宝にする重要性を認識できた企業に所属する非常に恵まれた技術者には、一体どのような能力が必要なのでしょうか?

ソフトウェアの設計図である「ソースコード」を読み解く能力でしょうか?TOEICの英語試験で高得点を取ることでしょうか?技術経営の知識でしょうか?流暢な英会話能力でしょうか?それらももちろん重要な能力の一つですが、筆者が技術者にもっとも必要と思うのは、人間的な魅力や人徳といった「人間力」です。

筆者が定義する人間力とは、人と人が、人類、社会、家族の発展のために何が必要なのかを一所懸命に自分の言葉で意見交換でき、お互いに切磋琢磨しながら共生し、何事にも情熱をもって積極的に取り組む能力だと思っています。これは、まさしく、世界中のオープンソースの技術者コミュニティが日々行っている活動です。コミュニティ同士が意見交換し、企業、組織体、社会がよりよいものになっていくため、知恵を出し合うコミュニケーション能力と熱意、情熱の有無が試されるのです。

しかし、日本の多くの技術者はどうでしょうか。「熱意などいらない。意思疎通はメールでよい。技術力があるから、コミュニケーション能力なんて不要」「革新的なものなんて要らないし、お客様もリスクは不要と考えている。意思疎通なんてしなくても、機能、品質、サポートが高ければ売れるし、そもそも、そういうコミュニティ活動なんてしなくても仕事はまわる」という人もいるかもしれません。

しかし、みなさん、すこしだけ考えてみてほしいのです。

ちょっと想像してみてください。日本から遠く離れた、人口が1億2000万人くらいの小さい島国があり、そこに日本語を全く話すことができないものの、非常に知識の豊富なひとりの若いソフトウェア技術者がいたとします。

しかし、その島国にいる若いソフトウェア技術者は、日本のコミュニティと会話もメールのやりとりも一切なく、当然、日本の技術者コミュニティ、欧米のコミュニティのイベントにも不参加です。「カタコトの日本語でもいいよ」と手を差しのべても、機械翻訳された日本語の長文メールが1通だけ届き、事前の会話も一切なく、いきなり高機能満載のソフトウェアを日本のコミュニティや企業に公開します。

そして、メールには、文字が非常に小さい300ページにのぼる取扱説明書が添付されており、その若い技術者は、長文メールの最後に「品質と機能は、世界一。だから日本人に合うだろう。価格は要相談」と書いてあるのです。想像してみてください。あなたは、このようなコミュニケーション能力の低い技術者のオープンソースソフトウェアを信頼し、自社の基幹システムに全面採用しますか?

みなさんも、同じようなことを他人にしたことがありませんか?

「機能、品質が世界一、だから売れる」「コミュニティとの意思疎通などビジネスと無関係だ」という考えで、世界に通用する斬新な発想が生まれるのでしょうか?また、「技術だけあれば、認めてくれるはずだ」「コミュニティの意見など不要。関わるだけ時間の無駄だ。自社のチームの意見や技術情報が妥当に決まっている」という考えで、オープンソースの最先端技術を持つコミュニティと深い繋がりを常に維持する欧米の先進企業に日本は太刀打ちできるのでしょうか?

私は、否と考えます。

だからといって、「ならば英語力だ!」と突っ走るのも否です。英語なんてカタコトで全然かまいません。最先端のオープンソース技術を使って企業や組織に革新をもたらすためには、TOEICで800点を取ることでもMBAを取得することでもなく、自分が抱く未来像の実現への熱意や情熱を世界の技術コミュニティと分かち合いつつも、得られた斬新なアイデアを自社のビジネスや社会の発展に昇華できる「人間力」なのです。

オープンソースを駆使し、企業や組織体にイノベーションを起こすためには、世界の人々と意見交換し、熱意をもって伝える「勇気」が必要です。「品質と機能が世界一なのに、なぜか売れない」そんな島国の人にならないようにしたいものです。カタコト英語と身振り手振りのジェスチャー、紙のメモ帳に書いた手書きの簡単な絵でかまわないので、技術コミュニティと意思疎通を図り、世界中の先進技術を追い求めるオープンソースコミュニティの輪に飛び込み、自社に変革をもたらす決意をぜひ、表明してみてください。

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今や軍事においても、技術者コミュニティが必須の存在

今までの記事で、筆者は、オープンソース技術者にとって必要なのは、コミュニティとの関わり、人間力であることを述べました。しかし、コミュニティというと、どうしても企業の人間からすると、「情報漏えいが心配」「誰だか分からないし、信頼性が低い」「責任範囲が不明確」という意見がつきまといます。

たしかに、技術者コミュニティは、「すべてが善」というわけでもなく、破綻したオープンソースコミュニティも数多く存在します。世界中のコミュニティで情報共有を行うので、情報セキュリティや企業の情報システムのガバナンスという観点で心配事が出てくるのも確かです。

以前、本ブログで、米国国防総省(ペンタゴン)(Department of Defense、通称DoDと呼ばれます)のインフラは、ヒューレットパッカードエンタープライズが手がけていることをご紹介しました。軍事関連施設ですので、非常にセキュリティを強固に保つ必要があり、UNIXなどのミッションクリティカルシステムが採用されています。

例えば、攻撃者の侵入があっても、被害を最小限にとどめる仕組みや、UNIXが持つOSそのものの頑健さ、高い可用性などが必要とされるため、クローズドソースのソフトウェアに頼らざるを得ないのも確かです。

しかし、米国国防総省や米国の政府機関をはじめ、現在、部分的にオープンソースの採用が積極的に行われているのです。

米国ヒューレットパッカードエンタープライズがIT基盤とオープンソースの情報活用技術を提供し、米国国防総省や米国政府機関のシステムを手がけるなどしており、ユーザーの米国国防総省側も、仮想化基盤、クラウド基盤、コンテンツ管理システム、統合開発環境などでオープンソースを積極的に採用しています。

いわば、クローズドで頑健なミッションクリティカルUNIXシステム基盤と、オープンソースのクラウド基盤、仮想化基盤を両輪で稼働させる「UNIX+OSSのハイブリッド型基盤」なのです。そして、近年は、軍用オープンソースの開発も行われており、官、民をあげて、米国国防総省が主導で形成した一定の信頼のおける技術者コミュニティにおいて多様な意見交換を行っています。

米国国防総省でさえも、国家にとって信頼のおけるオープンソース技術者とセキュリティを確保し、技術者コミュニティをうまく活用しているのです。

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「CEOが知っておくべきオープンソース革新」の中編をお送りしました。次回の最終回では、オープンソースを駆使したハイブリッド型インフラの時代について、ご紹介します。次回もお楽しみに。

 

【筆者プロフィール】

古賀政純(こが・まさずみ)
日本ヒューレット・パッカード株式会社
オープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリスト

兵庫県伊丹市出身。1996年頃からオープンソースに携わる。2000年よりUNIXサーバーのSE及びスーパーコンピューターの並列計算プログラミング講師、SIを経験。2006年、米国ヒューレット・パッカードからLinux技術の伝道師として「OpenSource and Linux Ambassador Hall of Fame」を2年連続受賞。プリセールスMVPを4度受賞。

現在は、日本ヒューレット・パッカードにて、Hadoop、Spark、Docker、OpenStack、Linux、FreeBSDなどのサーバー基盤のプリセールスSE、文書執筆を担当。日本ヒューレット・パッカードが認定するオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストとして、メディアでの連載記事執筆、講演活動なども行っている。Red Hat Certified Virtualization Administrator, Novell Certified Linux Professional, Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack, Cloudera Certified Administrator for Apache Hadoopなどの技術者認定資格を保有。著書に「Mesos実践ガイド」「Docker 実践ガイド」「CentOS 7実践ガイド」「OpenStack 実践ガイド」「Ubuntu Server実践入門」などがある。趣味はレーシングカートとビリヤード。

 

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