エッジコンピューティングに広がるKubernetes

 こんにちは、吉田行男です。今回は、適用範囲が広がりつつあるKubernetesについてご紹介したいと思います。

 昨年の10/12から米国で開催された米国マイクロソフト社主催の「Ignite 2022」で、マイクロソフト社は「Windows IoT」機器および「Windows」機器で動作する「Azure Kubernetes ServiceAKS)」のパブリックプレビュー版を11月に公開すると発表しました。この発表の中で、「AKS lite」と表現されているこの軽量版AKSは、WindowsLinuxのワークロードを実行するために開発された、Microsoft独自のKubernetesディストリビューションのことになります。このようにさまざまな環境でKubernetesの適用が進んでいます。以前、ご紹介した進むクラウドネイティブ~Kubernetesの現状とは~のようにクラウド環境では、すでにデファクトスタンダードになったかのような勢いで活用されていますが、今やそのハイブリッドクラウド/マルチクラウドの基盤という範疇を超えてさまざまな環境での適用が広がりつつあります。今回はこの中からエッジコンピューティング環境での活用について考えてみたいと思います。

 そもそも、エッジコンピューティングとは、IoT機器などの情報の発生源や利用者の近くで分散処理を行う仕組みのことで、クラウドコンピューティングが、サーバを集約して集中して処理する集中処理型と対照的な考え方になります。米国のGrand View Researchのレポート(*2)によると世界のエッジコンピューティング市場規模は、年間平均成長率(CAGRCompound Annual Growth Rate38.9%2030年に1559億ドルに達する見込であると予測されています。また、IDCのよる国内のエッジインフラ市場予測(*3)でも2021年~2025年の年間CAGR9.9%で、2025年の同支出額は、5,911億円になると予測されています。

(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)

 

メリット

では、このエッジコンピューティングを活用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

1.低遅延によるリアルタイムでのデータ処理

 エッジデバイスそのものや物理的に近くにあるエッジサーバはデータ処理に係る遅延を大幅に軽減させることが可能になります。IoTの活用が進み、工場やビルに設置されたセンサから大量のデータが送られ続ける中、全てのデータをクラウドサーバに送信していると数ミリ秒程度かもしれませんが遅延が発生します。リアルタイム性が求められる場面では数ミリ秒であっても遅延は致命的な問題となるので、迅速なデータ処理はエッジコンピューティングで、それぞれ行うなどの対応を取ることで、リアルタイムな処理が実現可能になります。

2.分散処理やトラフィックの最適化及び通信コストの削減

 エッジコンピューティングはエッジ側で高速・安全にデータ処理を行いつつ、必要なデータのみをクラウドに送る新たなアーキテクチャなので、当然のことながら、通信量を抑えることができ、ネットワークの負荷を軽減させることができます。通信量を抑えることにより、通信コストも大幅に削減することができます。

3.セキュリティやBCP対策、データガバナンスの強化

 外部ネットワークにデータを送信することなくデータ処理をエッジで行うため、データのやり取りにおけるデータ漏えいリスクを大幅に抑えることができます。特に工場内でデータを外部に出したくないユーザにとっては、とても重要なことになります。

 

 当然のことですが、エッジコンピューティングにも弱点はあります。基本的にエッジごとにノードを設置することになるので、ノードの数が多くなりシステムが複雑化し、管理が煩雑になります。また、エッジの記憶容量には限界があるので、データのバックアップを考慮しなければいけないなどさまざまな問題があります。

 そこで、クラウドネイティブ技術をこのエッジコンピューティングの世界に適用すること、さまざまなメリットを享受することができます。クラウドネイティブの説明をする時には、「マイクロサービス」や「イミュータブルインフラストラクチャ」などのキーワードが登場します。システムを細かいサービスに分解し、それぞれのサービスを連携させてシステム化する「マイクロサービス」では、サービスごとに負荷分散やスケーラビリティを持たせることができます。また、「マイクロサービス」で構築システムでは、あるサービスに障害が発生しても影響を局所的に抑えることができることで「耐障害性」が向上します。「イミュータブルインフラストラクチャ」とは、変化しないインフラという意味ですが、これを運用していくために冪等性(全く同じインフラ環境が構築できること)が求められますが、このためにIaC(Infrastructure as Code)という考え方で、インフラ環境をコード化する手法があります。この手法を活用することで、大量で同じ構成のエッジデバイスの環境構築に大いに効果を発揮することができます。

「AKS lite」とは?

 今回、マイクロソフト社が公開した「AKS lite」は、AKS プラットフォームを軽量なエッジデバイスに提供するもので、AKSは、マイクロソフトによるCNCF準拠のマネージドなKubernetesプラットフォームで、LinuxWindowsの両方のコンテナアプリケーションを実行することができます。「AKS lite」は、このプラットフォームをベースに、Windows 10および11 IoT EnterpriseEnterpriseProを搭載したWindows PCクラスのデバイスで、エッジに簡単に導入できる軽量のKubernetesディストリビューション(K8SおよびK3S両方)を提供するものになります

 「AKS lite」は、マイクロソフトがサポートと管理を行う、軽量でCNCFに準拠したK8SK3Sディストリビューションが含まれており、2つのvCPU4GBRAMという最小限のフットプリントで動作するように設計されていて、各Kubernetesクラスタは、独自のHyper-V分離型仮想マシンで実行することによりセキュリティが確保されています。また、LinuxベースとWindowsベースの両方のコンテナをサポートしており、AKS上でKubernetesクラスタを作成する場合、同じマシン上でLinuxコンテナ、Windowsコンテナ、または両方を同時に実行することを選択することができます。

 クラウドネイティブなワークロードの多くはLinuxコンテナで構築されており、クラウドネイティブなソリューションを活用するためにLinuxシステムをエッジに導入しなければならないという課題に直面することになりますが、この「AKS lite」を活用することで、Windows上でクラウドネイティブのLinuxワークロードを実行することが可能になり、ネイティブWindowsアプリケーションとコンテナ化されたLinuxワークロードの間の相互運用性を提供することになります。

まとめ

 クラウドネイティブの技術も広がってきたとはいえ、まだまだエンタープライズのシステムで日常的に活用するには時間がかかるように思います。通常、エンタープライズからエッジコンピューティングの世界へ技術が移行していくのに2年ぐらいはかかると言われていますが、それらの技術を一足飛びにエッジコンピューティングの世界へ展開することで、今まで考えられなかった新しい世界を経験することができるかも知れません。また、もう少し違った視点で考えてみるとエッジデバイスからクラウド環境まで同じコンテナが稼働することで、技術者の学習コストも大幅に削減でき、常に言われている技術者不足の解消にも大いに貢献することができるのではないかと思います。

 

国内エッジインフラ市場予測を発表
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ49035822

エッジコンピューティング市場規模、2030年に1559億ドル
http://ex-press.jp/lfwj/lfwj-news/lfwj-biz-market/48123/

 

著者:
吉田 行男
2000年ごろからメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。社内外でOSS活用に関する講演、執筆活動を行ってきた。2019年から独立し、さまざまな会社や団体の顧問として活動。OSSの活用やコンプライアンス管理などを支援している。

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