脱・なんとなくのダークモード。歴史と生理学から考えるUIデザイン

Collage showing analytics on a laptop, a programmer at dual monitors, a person using a smartphone, and a GPS navigation map on a phone.

現在、スマートフォンやPCのOS、多くのアプリで当たり前のように提供されている「ダークモード」。

本記事では、ダークモードの歴史から、ダークモードが有効なケース、そして色彩設計のガイドまでを解説します。

ダークモードは原点回帰?

コンピューターの歴史を振り返ると、画面は最初からダークモード(暗い背景)でした。

1970年代から80年代前半、主流だったCRT(ブラウン管)モニターでは、画面全体を明るく発光させることは負荷が高かったため、「暗い背景に緑や白色のテキスト」を表示するのが基本でした。

しかし1970年代にGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)が研究所で生まれ、1980年代前半から実用化・普及し始めると、画面設計の考え方は大きく変わりました。GUIを採用したパーソナルコンピューターでは、文書作成やデスクトップパブリッシング(DTP)が重要な用途となり、画面上で印刷結果を忠実に再現するWYSIWYGという考え方が広まりました。白い紙に黒い文字が印刷されていることを、画面上で表すことが基本となったのです。こうして、一般向けパソコンのGUIではライトモードが事実上の標準となりました。

この間、一般向けの画面は白くなりましたが、システムを開発するエンジニアたちは、非GUIな開発環境などで「黒い画面」を使い続けていました。

そして2010年代、スマートフォンが普及し、暗い場所でディスプレイを見る時間も増えました。スマートフォンで使われることの多い有機ELディスプレイは「黒色=発光をオフにする」仕組みのため、黒背景にすることで消費電力を抑えることができます。OSやアプリケーションではデザインシステムが成熟し、ライトモードとダークモードの双方を前提とした設計が一般的になります。

「ダークモード=目に優しい」は本当?

「ダークモードは目に優しい」とよく言われますが、科学的には「無条件に目の負担が減るわけではない」というのが真実です。人間の目の「瞳孔」の働きによって、ライトモードとダークモードには一長一短があります。

ライトモードのメリット:ピント調節のしやすさ

人間は明るいものを見ると瞳孔が小さくなります。カメラの絞りを絞った時のように「焦点深度」が深くなるため(ピンホール効果)、目の筋肉に負担をかけずに文字にピントを合わせることができます。十分な照明環境では、ライトモードの方が読解速度や文字認識精度が高いという研究が報告されています。

カメラの絞りと被写界深度

ダークモードのメリット:暗所でのまぶしさ軽減

一方、ダークモードが真価を発揮するのは「周囲が暗い環境」です。暗い部屋でライトモードを見ると、強いコントラストによる「まぶしさ(光の刺激)」が強いストレスを与えます。暗所においては、発光量が少ないダークモードの方が主観的な目の疲労感が減少することが、研究で報告されています。

ダークモードと「ネオンサイン」のジレンマ

ダークモードでは、白い文字やアイコンなどが光を帯びたようににじんで見えることがあります。

暗い画面を見ていると、目はより多くの光を取り込もうとして瞳孔を広げます。瞳孔が大きく開くと、目の光学収差や眼球内での光の散乱の影響を受けやすくなるため、暗い背景に表示された明るい文字などの高コントラストな要素は、輪郭がぼやけたり、光がにじんで見えたりする場合があります。

この見え方は、夜の街でネオンサインや街灯の光が周囲ににじんで見える現象と似ています。(ネオンサインや街灯のにじみには、大気中の塵や水滴による光の散乱も影響しているため、まったく同じ現象ではありません。)

また、このような見え方は誰にでも起こり得ますが、乱視がある場合は光が特定の方向へ伸びたり、文字が二重に見えたりするなど、にじみがより目立つことがあります。

ダークモードが必要なケースと不要なケース

こうしたメリット・デメリットを踏まえると、ダークモードはすべてのサイトやアプリで必須というわけではありません。ユーザーの「利用時間」「利用環境」「コンテンツの性質」によって優先度は大きく変わります。

ダークモードが求められるケース

夜間や暗所で利用されるアプリ:地図、カーナビ、アラーム、電子書籍など。周囲の暗順応を妨げず、眩しさを抑える配慮が必要なため。

コンテンツ没入型(エンタメ):動画配信やゲーム、写真ギャラリーなど。周囲のUIを沈ませることで、メインコンテンツを際立たせるため。

U-NEXT

プロ用の映像、写真編集ツール:上記のエンタメコンテンツと同様に視線の分散を防ぐ効果に加え、周囲のUIを暗くニュートラルにすることで「目の錯覚(明るい背景に引っ張られて写真が暗く見える現象)」を防ぎ、色や明るさのディテールを正確に認識・編集しやすくなります。

ダークモードを必要としないケース

一過性のWebサイト・ランディングページ:メーカーやキャンペーンサイトなど、ブランドの世界観を固定して伝えることが優先されるもの。

Canva ウェブページテンプレート

印刷を前提としたドキュメント:履歴書・職務経歴書などの作成サービス、ワードプロセッサーアプリなど。印刷をすることが前提の場合、仕上がりをイメージしやすくなります。前述のWYSIWYGエディターです。

Canva

単なる「色反転」ではない、色彩設計ガイド

ダークモードの配色は、ライトモードのカラーを機械的に反転したものではありません。
視認性を担保し、にじみによる目の疲労を防ぐための設計が必要です。

完全な黒の背景、完全な白の文字にはしない

背景色には完全な黒ではなく黒に近いグレーを採用します。真っ黒を避けることでコントラストを適度に抑え、目への刺激を和らげます。背景と同じく、テキストも完全な白を避けます。

白い背景に暗い文字のライトモードでは、にじんで見えることは少ないですが、暗い背景に明るい文字のダークモードで真っ白な文字にすると、前述のように滲むため、ライトモードよりもダークモードのコントラストは小さくします。

次の表は、Google Financeの背景と文字の色です。

ライトモードダークモード
背景色#FFFFFF:白#101218:青系の黒に近い暗いグレー
文字色#0A0A0A:黒に近い暗いグレー#E6E8F0:青系の明るいグレー
コントラスト比19.79 : 115.3 : 1

表の「コントラスト比」は、アクセシビリティ基準(WCAG)で採用されている計算方法によって算出される、2つの色のコントラストの度合いを示す指標です。「1:1」がコントラストなし、「21:1」が最大のコントラストを表します。

有彩色も明度や彩度を調整

テーマカラーやグラフの色(有彩色)は、ライトモードの色のままダークモードで利用すると、色によって、目立ちすぎたり、背景と見分けにくくなる場合があります。Google Financeの例では、ライトモードの緑と赤のグラフの色を、色相を変えずに明るい色に調整してダークモードに適用しています。

Google Finance

おわりに:利用環境によって最適なUIは変わる

ライトモードとダークモードは優劣の関係ではなく、それぞれ異なる利用環境に最適化されたデザインです。重要なのは「どちらが優れているか」ではなく、「ユーザーがどのような環境で、どのような目的で利用するか」を理解し、それに合わせて設計することです。

ちなみに:アナログ時代から脈々と…

コンピューターよりも以前から、夜間の視認性に配慮した表示設計は、自動車や航空機の計器で発達してきました。夜間に明るすぎる計器を見ると暗順応が妨げられ、暗い道路や空など周囲の状況を視認しにくくなることがあります。また、計器の光が窓ガラスに映り込み、視界を妨げることもあります。そのため、計器には暗い背景が採用されるほか、用途に応じて赤やアンバーなど、夜間の視認性に配慮した照明色が用いられてきました。

Photo by National Cancer Institute Windows Ladislav Stercell Rui Silvestre Tyler Rooney Ed Wingate Sandisk Dragoș Grigore Nursultan Bakyt Boitumelo on Unsplash

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