初めてのKubernetesバージョンアップ:Kubernetesにおけるバックアップの必要性とデータ管理の課題

はじめに

前回はダウンタイムを最小限に抑えるBlue/Greenデプロイ戦略について紹介しました。これは旧環境(Blue)と新環境(Green)を完全に分離して用意し、外部からのトラフィックを一瞬でGreenに切り替える手法です。これにより、ダウンタイムを抑制しつつバージョンアップを完了させ、かつ問題発生時の切り戻し(ロールバック)も瞬時に行えるという、安全性の高い方法です。

本記事では、安全なバージョンアップに不可欠なバックアップの必要性と、その際に直面するデータ管理の課題について深堀して解説します。

なぜKubernetesのリソースバックアップが必要なのか

バージョンアップ中の操作ミスやエラーにより、Kubernetesでは以下の二つの要素が失われる可能性があります。

  1. クラスターリソースの設計図:Deployment、Serviceなどクラスター全体を構成する設定情報
  2. アプリケーションデータ:データベースに保存されたアプリケーションデータなど

サービスを元の状態に完全に復元するには、アプリケーションデータに加え、クラスターの設計図も完全に復元できる状態が必要です。

ステートレスとステートフルアプリケーションの違い

デプロイメント戦略を考えるうえで、データの有無が大きな違いとなります。

  • ステートレス:データを持たず、リソースの入れ替えが容易です。バージョンアップ時にデータ移行の問題は発生しません。
  • ステートフル:永続的なデータ(例:DBのデータ)を保持し、その状態に依存して動作します。データの損失を防ぎつつ、新旧バージョン間でデータの互換性をどう担保するかが大きな壁となります。

Kubernetesのデータ構成要素

Kubernetesが「データ」をどのように管理しているか、バックアップとリストアに必要な要素を解説します。

  • etcd
    • Kubernetesクラスターの全てのメタデータと状態を保持しています。
    • etcdのバックアップこそがクラスターの設計図のバックアップであり、これがなければPodやServiceの定義は全て失われてしまいます。etcdのバックアップは最も重要です。
  • PV、PVC(アプリケーションの永続データの実体)
    • PVC(Persistent Volume Claim): アプリケーションが「ストレージを使いたい」と要求するリソース定義です。
    • PV(Persistent Volume): 実際のストレージ(ディスクなど)の実体です。
    • アプリケーションデータを復元するには、PVの実データだけでなく、そのデータを使うためのPVCというKubernetesリソース定義もセットでリストアしなければなりません。この「リソースとデータの実体をまとめて管理する」点が、従来のバックアップとの大きな違いです。

Blue/Greenにおけるデータ移行の課題

ステートフルなアプリケーションの安全なバージョンアップにおいて、バックアップ・リストアが課題になる箇所を説明します。

  • 課題1:ロールバック時のデータ損失
    • Blue/GreenデプロイでデータをコピーしてGreen環境を構築した場合、ロールバックでBlue環境に戻ると、Green環境で発生した新規データは全て失われます。
    • 技術的には「コピーした時点に戻す」という期待通りの動作ですが、これはデータ損失を意味します。
    • 最も問題なのは、ロールバック後に改めてバージョンアップを試みる際、失われたデータは二度と取り戻せないという点です。
    • 安全なロールバックを実現するには、このデータ損失を防ぎつつ、リソースとデータを同時に、任意の時点に復元する必要があります。
  • 課題2:新旧バージョンのデータ互換性
    • Blue/Greenデプロイでデータストアを共有した場合、新バージョン(Green)がDBスキーマを変更すると、即座に旧バージョン(Blue)のアプリケーションが動かなくなります。
    • バックアップツールは「データの互換性」そのものを解決できません。データ移行処理(DBマイグレーション)を、デプロイプロセスの中に組み込む必要があり、この統合が複雑になります。

安全なバージョンアップを実現するには、これらの課題を解消するために、リソースとデータを同時に扱える専門的なツールが必要になります。

まとめ

今回の記事では、Kuberntesのバックアップは、etcdとPV/PVCの二軸で、セットで行うことが重要であることを解説しました。しかし、ステートフルなアプリケーションのバージョンアップでは、データの互換性と整合性が課題となります。

これらの複雑な課題を解消し、安全なリソースとデータのバックアップ・リストアを実現するにはKubernetes専門のバックアップツールが不可欠です。次回は、そのソリューションである「Velero」について解説します。

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